東京高等裁判所 平成12年(ネ)310号 判決
主文
一 原判決中控訴人の敗訴部分を取り消す。
二 被控訴人の請求を棄却する。
三 訴訟費用は、第一、二審とも被控訴人の負担とする。
事実及び理由
第一控訴の趣旨
主文同旨
第二事案の概要
一 本件事案の概要は、以下のとおり当審における当事者の新たな主張を付加するほか、原判決「事実及び理由」の「第二 事案の概要」に記載のとおりであるから、これを引用する。
二 当審における当事者の新たな主張
1 控訴人
国家賠償法一条一項にいう「公権力の行使」には、公立学校における教師の教育活動も含まれるところ、本件プリントは、公立学校の教員である控訴人が、その担当する授業中に教材の一部として配付したものである。授業が教員の教育活動の中核をなすものであることは明らかであり、その授業中に行われた本件配付行為は、控訴人が職務を行うについてした公権力の行使に当たるから、控訴人の本件配付行為には国家賠償法一条一項の適用がある。そして、公権力の行使に当たる国又は地方公共団体の公務員が、その職務を行うについて、故意又は過失によって違法に他人に損害を与えた場合には、その公務員が属する国又は公共団体がその被害者に対して賠償の責に任ずるのであって、公務員個人はその責を負わないから、公務員である控訴人個人は、本件配付行為につき、被控訴人に対し、直接損害賠償責任を負うことはない。したがって、被控訴人の損害賠償請求を一部認容した原判決は、速やかに棄却されるべきである。
2 被控訴人
控訴人の本件配付行為は、筋違いの逆恨みから、専ら被控訴人を誹謗することを目的としてされたものというべきであり、控訴人が、管理職の指導を無視し、違法な行為をあえて行った点において、もはや職務熱心の余りに行った保護されるべき公務とは言い難い。そうすると、本件配付行為に国家賠償法一条一項は適用されないというべきである。
なお、いやしくも外形的には授業中に本件プリントを配付していることからして、本件配付行為に国家賠償法一条一項が適用されるとしても、公務員の行為が職権濫用に当たる場合や、当該公務員に故意又は重過失がある場合には、当該公務員個人に対しても民法七〇九条の不法行為責任を問い得ると解すべきである。本件における控訴人の行為は、管理職の指導を無視し、筋違いの逆恨みから専ら被控訴人を誹謗することを目的としてされたものであり、控訴人には故意又は重大な過失があるから、控訴人個人の損害賠償責任が発生する。
第三当裁判所の判断
一 国家賠償法一条一項にいう「公権力の行使」には、公立学校における教師の教育活動も含まれるものと解するのが相当である(最高裁昭和六二年二月六日第二小法廷判決・裁民集一五〇号七九頁参照)ところ、公立学校の教員である控訴人は、担当する社会科の授業において、生徒に対し、授業で使用する教材として本件プリントを配付したのであるから、本件配布行為は、公務員がその職務を行うについてした公権力の行使に当たることは明らかであり、国家賠償法一条一項が適用されると解すべきである。
また、公権力の行使に当たる国又は公共団体の公務員が、その職務を行うについて、故意又は過失によって違法に他人に損害を与えた場合には、国又は公共団体がその被害者に対して賠償の責に任ずるのであって、公務員個人はその責を負わないものと解するのが相当である(最高裁昭和五三年一〇月二〇日第二小法廷判決・民集三二巻七号一三六七頁参照)。そうすると、控訴人の本件配付行為の違法性を理由とする損害賠償請求については、控訴人の属する公共団体が、被控訴人に対し賠償の責に任ずるのであって、控訴人個人は、損害賠償責任を負わないと解すべきであり、公務員の行為が職権濫用に当たる場合や、当該公務員に故意又は重過失がある場合には、当該公務員個人に対しても民法七〇九条の不法行為責任を問い得るとする被控訴人の主張は採用することはできない。
よって、被控訴人の控訴人に対する本件損害賠償請求は、その余の点について判断するまでもなく、理由がないものとして棄却すべきである。
二 以上によれば、被控訴人の請求を一部認容した原判決は不当であるから、控訴人の敗訴部分を取り消した上、被控訴人の請求を棄却し、訴訟費用の負担につき民事訴訟法六七条二項、六一条を適用することとして、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 塩崎勤 裁判官 小林正 裁判官 萩原秀紀)